入札の負担と電力市場の変化
複雑化する電力調達の課題

 

ESP方式を導入する前の電力調達方法を教えてください。

高圧電力69施設で入札方式を採用していました。

契約電力500kW以上の施設を1グループ、500kW未満の施設を2グループに分けて入札を行っており、準備に相当な労力を要していたのです。見積り依頼を出すためには、69施設×3年分の電力使用実績データをExcelに手入力しなければなりません。

また、当時はスマートメーターが普及途上で、データの読み解きには高度な専門知識が必要でした。

 

入札では具体的にどのような課題がありましたか?

入札に参加する電力会社は多くて5社程度、500kW以上の大規模施設では東京電力しか応札がないという事態が発生。グループ全体では安くなっても、個別の施設では前年より高額になる事例もありました。

参考見積を出してもらえない、複数年契約を余儀なくされるなど、競争原理が十分に働かない点も課題でしたね。

東京電力と新電力の価格差がなくなり、入札の意義が薄れてきたという背景もあります。

 

ESP方式を知ったきっかけと導入を検討した理由は何ですか?

既にESP方式を導入していた沼田市の担当者からのご紹介です。

「事務負担の軽減」「安定した電力供給」「コスト削減」「最適な電力会社・メニューの選定」など、複数のメリットを総合的に判断して、本格的な検討を開始。利活用のない市有施設や稼働率の低い土地・建物の管理運営を民間に委託し、経費削減を目指す「鹿沼市公共施設等民間提案制度(2018年度~)」のフレームワークを活用し、協議を進めることになりました。

 

データに基づいた説得力で
迅速な合意形成と導入判断へ

 

検討から導入までのプロセスはどのように進められましたか?

所管課に対して事前説明会を開催し、ESP方式の仕組みや、安定供給に問題がないことを説明。次に、正式な事業提案書をいただき、民間提案制度の評価委員会の審査を経て、ESP方式の導入とエネリンク様との協定締結に至りました。

提案から協定締結までは約4〜5ヶ月、その後、契約に向けた準備を進め、次年度(2020年4月)からの導入が決まりました。

 

予算確保や庁内の合意形成において工夫された点は?

ESP委託料をどう確保するかという課題がありました。

まずは財政担当に対して、東京電力と現契約の電力会社との差がほぼないことを実際のデータで提示。ESP方式で複数の電力会社から最適なメニューを選定すれば、数千万円の削減効果が見込めることを説明しました。数千万円の削減効果に対して、10分の1程度の委託料で済むことを市長にも報告し、了解を得ることができたのです。

 

導入にあたっての懸念点と、解消方法を教えてください。

「本当に安定供給できるのか」「倒産・撤退のリスクはないのか」など、不安の声もありましたが、ベース電力を持つ信頼性の高い電力会社が選定されることを説明。議会に際しても、全69施設のコスト削減効果を提示する資料を準備して臨みました。

感覚的ではなく、きちんとしたデータに基づく説明が、予算確保の決め手になったと思います。

 

事務負担もコストも大幅減
多彩な効果と5年間の実績

 

ESP方式導入によってどのような効果が得られましたか?

最も大きな効果は事務負担の大幅な軽減です。従来は数ヶ月かかっていた入札準備の負担がなくなりました。また、複雑なデータ分析を依頼できるようになり、非常に助かっています。

コスト面では、当初から数千万円の削減効果が出ております。2020年以降の電力価格高騰時にも、事前シミュレーションに基づいて予算を確保していたので、混乱なく乗り切ることができました。

 

運用面での工夫や改善点はありますか?

2025年からは、施設ごとの電力使用パターンを分析し、より精緻に電力メニューを選定しています。夜間・休日の使用が少ない施設には市場連動型を、一日を通して使用量が一定の施設には単価固定型を適用しました。

メリットと価格変動リスクを考慮した最適な組み合わせを提案いただき、差額が少ない施設ではリスク管理を優先する形で、適切なバランスを取っています。

 

ESP方式の魅力を特に実感したエピソードは?

文化センターや総合体育館など、市の直接管理ではない指定管理施設への導入が視野に入ってきました。指定管理者が電気代の高騰に悩んでいることを知り、ESP方式を紹介したのです。試算すると数百万円の削減効果が見込めることがわかり、「この分を修繕費に回せる」と喜ばれました。

電力コストの削減が、間接的に市民サービス向上につながることを期待しています。

 

ESP方式の導入で
自治体の電力調達に最適解を

 

今後のESP方式の活用について、ビジョンをお聞かせください。

新市長のもとで環境政策が重視される中、環境配慮型の電力メニューへの段階的な移行を検討しています。コスト削減と環境配慮を両立できる提案を受けたいですね。

また、現在ESP方式の対象となっているのは69施設ですが、指定管理施設でも導入に至れば、実質的には70施設以上に拡大されます。

 

導入を検討している自治体へアドバイスをお願いします。

導入検討時に最も重要なのは「内部の説得」です。直近12ヶ月分の電気使用量と電気料金の一覧表と請求書を準備して、具体的な削減効果を算出してもらってから、各所への説明に臨んでください。

「新しいことをすると負担が増えるのでは」という懸念があるかもしれません。しかし実際には、電力調達に関する業務負担から解放され、他の業務に集中できるようになると思います。

電力調達は世界情勢や市場の変化に応じて、常に最適解を求める必要があります。自治体職員の裁量では難しいため、専門家の知見を活用することが重要です。

ESP方式は単年度ごとの契約で、毎年最適な提案を受けられるため、長期的に見ても大きなメリットがあるでしょう。

 

(取材日:2025年3月19日)