近年、ChatGPTをはじめとする生成AI(人工知能)の急速な普及により、私たちの業務効率は飛躍的に向上しました。文章作成や画像生成、データ分析など、さまざまな場面でAIが活用される時代となっています。

しかし、便利なAI技術の裏側では、膨大な電力が消費されているという事実をご存知でしょうか。AIの学習や推論処理には大規模な計算リソースが必要となり、それに伴う電力需要の増大が世界的な課題となっています。

本記事では、AIによる電力消費の実態と対策について詳しく解説します。

AI1回の利用でどれだけの電力を消費するのか

私たちが日常的に行っている「検索」や「質問」にも、それぞれ電力コストが発生しています。

国際エネルギー機関(IEA)のレポートによると、一般的なGoogle検索で消費する電力は1回あたり約0.3Whです。これに対し、ChatGPTに1回質問するだけで、10倍近くに相当する約2.9Whの電力が消費されます。

1回あたりの消費電力だけを見ればわずか数Whの世界で、それほど大きくは感じないかもしれません。しかし、OpenAIの発表によると、ChatGPTは1日に約25億件ものプロンプトを処理しているとされています。

これらの数値をもとに単純計算すると、ChatGPTが1日に消費する電力はおよそ7,250MWh規模になると推計されます。日本の一般家庭1世帯が1年間に消費する電力量を約4,000kWhと仮定すると、約1,800世帯が1年間に使用する電力量に相当する規模です。

小さな電力コストが積み重なることで、結果として極めて大きな電力負荷が発生しているのです。

AIが消費する電力の実態

AIの急速な普及に伴い、データセンターを中心とした電力消費が大幅に増加しています。この背景には、AI技術の高度化と社会への浸透という2つの要素が深く関わっています。

データセンターにおける電力消費の現状

データセンターは本来、サーバーやネットワーク機器を収容し、データを処理・保存するための専用施設です。近年はこれに加え、AIの学習や推論に特化した「AIデータセンター」も活躍しています

ここ数年でAIサービスは業務や日常生活に一気に広がり、チャットボットだけでなく、画像・動画・スライドを自動生成できるなど技術が一気に高度化しています。AIデータセンターで処理されるデータ量は急増し、電力消費の増加が加速しているのです。

国際エネルギー機関(IEA)のレポート

国際エネルギー機関(IEA)が2024年に発表したレポートによると、2022年時点で世界のデータセンターが消費した電力量は約460TWh(テラワット時)でした。これは世界の総電力需要の約2%を占める規模です。さらに、この消費量が2026年には約1,000TWhに達する可能性があると予測されています。

国内においても状況は同様です。電力の供給体制を整えるために活動する電力広域的運営推進機関(OCCTO)による2025年1月の発表では、2023年度まで減少傾向だった日本の需要電力量が、2024年度から増加に転じ、2034年度には2024年度比で5.8%増加すると予測されています。

こうした増加要因として生成AIの普及、そしてデータセンターでの電力消費の増大が大きく影響しているとされています。

AIによる電力消費が増大する2つの要因

AIによる電力消費の増大には、「学習プロセス」と「推論プロセス」という2つの段階が関係しています。

学習時の膨大な電力消費とCO2排出

AIの「学習プロセス」とは、AIモデルが大量のデータから規則性やパターンを見つけ出す段階のことです。高性能なグラフィックボードを多数搭載したサーバーが必要となり、数百時間から数千時間にわたる連続計算が実施されます。

アメリカのカリフォルニア大学の発表によると、大規模言語モデル「GPT-3」の学習時に消費された電力量は1,287MWhでした。これは日本の一般家庭1世帯の年間電気使用量(約4,000kWh)で換算すると、およそ320世帯が1年間に使う電力量に相当する規模です。

なお、学習に要した期間についての詳細は公表されていないものの、大規模言語モデルの学習には一般に数ヶ月から半年程度かかるとされています。そのため、GPT-3も概ね同程度であった可能性が考えられます。

この学習プロセスで排出されるCO2量も深刻です。GPT-3の学習で排出されたCO2は502トンで、これは平均的なアメリカ人が1年間に排出するCO2の約140倍に相当します。

推論時の累積的なエネルギー負荷

「推論プロセス」は、学習済みのAIモデルが実際に質問に答えたり、画像を生成したりする段階を指します。

推論1回あたりの電力消費は学習時と比べて小さいものの、世界中で毎日数十億回もの推論が実行されており、累積すると膨大なエネルギー負荷となります。

業務でAIを日常的に活用する企業が増えるにつれ、この累積的な電力消費は今後さらに増加していくと予測されています

三菱総合研究所の試算では、2020年と比較して2040年にはネットワークを流れるデータ量が約350倍に増加する見込みです。生成AIの需要が増大し社会に浸透すると、さらに多くのデータが処理され、電力消費も比例して増加することになります。

データセンターの省エネ対策とインフラ整備

電力消費の増大に対し、データセンター業界では先進的な省エネ技術の導入が進んでいます。

冷却システムの革新による消費電力削減

データセンターでは、サーバーの稼働により大量の熱が発生します。この熱を効率的に冷却することが、消費電力を削減する上で重要なポイントです。

従来の空調設備に加え、近年では液浸冷却という先進技術が注目されています。これは、サーバーを熱伝導率の高い液体に浸して直接冷却する方法で、従来型と比較してサーバー冷却のための消費電力を大幅に削減できるとされています。

NTTコミュニケーションズが展開するデータセンターサービス「Green Nexcenter™」は、生成AI向けに高発熱サーバーと液体冷却装置を導入し、省エネを実現。センター内の電力に実質100%再生可能エネルギーを使用することで、CO2排出の抑制にも成功しています。

PUE(電力使用効率)の改善事例

データセンターの電力効率を測る指標として、PUE(電力使用効率)が挙げられます。データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値で、1.0に近いほど効率が良いことを示す値です

Googleは全拠点で平均PUE1.09以下を達成するなど、世界をリードする実績を挙げています。同社はAIを活用したリアルタイムエネルギーマネジメントシステムを導入し、冷却システムの最適化を図っているのが特徴です。

国内でも、データセンター事業者による効率化への取り組みが加速しており、業界全体でPUE改善が進んでいます。

再生可能エネルギーと電力需給のバランス

AI普及による電力需要増大に対応するには、省エネ技術の導入だけでなく、再生可能エネルギーの活用と電力需給の最適化が不可欠です。

地域の再生可能エネルギー活用の重要性

データセンターの特徴として、計算処理の多くは場所を選ばないという点があります。この特性を活かし、再生可能エネルギーが豊富な地域に計算処理を分散させる取り組みも進められています。

例えば、北海道のように風力発電の導入が進む地域では、発電量が増える時間帯に合わせて生成AIの学習処理などを行うことで、再生可能エネルギーの有効活用につなげることが可能とされています。こうした手法は、余剰電力の抑制や送電ロスの低減といった観点からも注目されています。

海外では、ドイツの自動車メーカーBMW社が、衝突シミュレーションなどの高度な計算処理の一部をアイスランドに拠点を持つVerne Global社のデータセンターへ移転した事例があります。アイスランドは地熱や水力発電といった再生可能エネルギーが豊富で、電力のほぼ全量を再生可能エネルギーでまかなっている国として知られています。

このような事例は一部の先進的な取り組みではあるものの、生成AIの普及が進む中で、再生可能エネルギーとデータセンター立地を組み合わせた電力活用の可能性を示すものと言えるでしょう。

AIによる電力消費に関するよくある質問

AIによる電力消費に関するよくある質問について回答します。

Q:AIを業務で使うと電気料金はどれくらい上がりますか?

A:使用するAIの種類や利用頻度によって大きく異なります。クラウド型のAIサービスを利用する場合、サービス利用料に電気代が含まれているため、直接的に負担が増えるケースは多くありません。

Q:データセンターの電力消費増加は電力不足を引き起こしますか?

A:日本では、将来の電力需要増加に備え、あらかじめ供給力を確保する仕組みが整備されています。その一つが「容量市場」で、4年後に想定される最大需要を満たすための発電能力(供給力)が事前に確保されています。

ただし、電源構成の変化や地域ごとの需要集中などの課題もあり、今後も継続的な検討が必要とされています。

Q:再生可能エネルギーでAIを動かすことは可能ですか?

A:可能です。実際に大手IT企業の多くが再生可能エネルギー由来の電力でデータセンターを運営しています。

AI時代に持続可能な電力利用を実現するために

生成AIの普及は、働き方や社会の仕組みを大きく変えつつあります。一方で、AIを支えるデータセンターの電力需要は増え続けており、「デジタルの成長」と「エネルギーの制約」を同時に考えなければならない時代に突入したと言えます。

AIとエネルギーは、今後ますます切り離せない関係になっていくと予想されます。だからこそ、利便性だけでなく持続可能性も重視し、技術・制度・運用の三方向から改善を積み重ねていくことが、これからの社会には求められていくでしょう。