同じ日本国内でありながら、電気代には大きな地域差が存在することをご存じでしょうか。事業を運営する企業にとって電気料金は毎月発生する固定費の1つであり、その背景を理解することはコスト管理のうえで非常に重要です。
電力自由化が進んだ今でも、地域差は依然として存在しています。本記事では、その理由と仕組みをわかりやすく解説し、事業者が取るべき対策をご紹介します。
電気代の地域差はどれくらい?

まず、実際にどの程度の地域差が存在するのかを具体的な数字で確認していきましょう。
全国には送配電エリアごとに10の大手電力会社があり、それぞれのエリアで料金体系が異なります。一般的な事務所で月間900kWhを使用した場合を想定すると、地域により月額6,000円~9,000円、年間では70,000円~110,000円ほど差が出るケースもあります。
地域別の電気料金の傾向
全国的に見ると、北海道エリアや沖縄エリアの電気料金が高く、北陸エリアや関西エリアが比較的安い傾向にあります。
これは、電気料金を構成する、電力量料金・託送料金・燃料費調整額といった要素が地域ごとに異なるためです。
電気代に地域差が生まれる3つの主要因

電気料金の地域差は、主に3つの要因によって形成されています。それぞれの要因について詳しく見ていきましょう。
要因①:発電方法・電源構成の違い
各地域がどのような発電方法を採用しているかは、電気料金に大きく影響します。火力発電・水力発電の比率は地域ごとに異なり、その違いが地域差の主要因の1つになっています。
火力発電への依存度
日本の電力供給の多くは火力発電に依存しています。火力発電で使用する燃料(原油、LNG、石炭)は国際市場の価格変動を受けやすく、燃料価格が上昇すると電気料金にも影響します。
特に北海道エリアは石油火力の割合が相対的に高く、石油は他の燃料よりも調達コストが不安定になりやすいため、燃料価格が高騰した際には電力量料金が上昇しやすい傾向があります。
水力発電の活用状況
一方、北陸エリアのように水力発電の比率が高い地域では、燃料費がかからず発電コストが安定しやすい特徴があります。水力が多いほど、国際的な燃料価格の変動に影響を受けにくく、結果として電気料金が抑えられます。
地域によって電源構成が異なる理由
水力発電に適した地形や、火力発電の燃料調達のしやすさなど、地域の自然条件やインフラ状況が電源構成に大きく影響します。そのため、地域ごとの電源構成の違いが、電気料金の差に直結していると言えます。
要因②:送配電インフラ・託送料金の違い
電気は発電所でつくられた後、送配電網を通って各地域へ届けられます。この送配電網を維持するための費用は「託送料金」として電気料金に含まれており、地域差が生まれる最大の要因の1つとなっています。
送電距離と電力ロス
送電線を長距離にわたって電気を流すと、一定の電力ロスが発生します。発電所が都市中心部から離れている地域では、どうしても送電距離が長くなり、送電に必要な設備コストが増えやすくなります。
そのため、広範囲に電気を届ける必要がある地域ほど、電気料金が高くなる傾向があります。
送電設備の維持管理費用
送電線・変電所・鉄塔といったインフラの維持には多くのコストがかかります。特に以下の条件に当てはまる地域では、設備の保守・点検コストが増えやすくなります。
- 積雪や塩害など、気象条件が厳しい
- 広大な面積をカバーするため設備量が多い
- 人口密度が低く、一人あたりのインフラ負担が大きい
たとえば北海道エリアでは、広大なエリアを維持しつつ厳しい気候にも対応する必要があるため、託送料金が相対的に高く設定される傾向があります。
託送料金が地域差を生む理由
託送料金は、送配電事業者の設備規模・維持費・需要密度などを基に国が規制値として定めています。そのため、地域のインフラ条件が異なる限り、自由化後も託送料金に差が生じ続ける仕組みです。
つまり、送配電インフラの構造そのものが、電気料金の地域差を生み出していると言えるでしょう。
要因③:原子力発電所の稼働状況
原子力発電は、かつて日本の電力供給を支える重要な電源でした。しかし、2011年の東日本大震災以降、多くの原子力発電所が長期停止しており、これが地域ごとの電気料金に影響しています。
停止中の原発維持コスト
原子力発電所は稼働していない場合でも、安全対策や設備の維持管理に相当の費用がかかります。これらの費用は複数の制度を通じて広く回収されており、間接的に電気料金へ影響する仕組みになっています。
原発を多く抱える地域では、この維持費用の影響を相対的に受けやすい傾向があります。
代替発電のコスト増
原発が停止すると、その分を火力発電で補う必要があります。火力発電は燃料価格(原油、LNG、石炭)の影響を受けやすいため、原発停止によって火力の比率が高まると、地域全体の発電コストが上昇しやすくなります。
特に燃料価格が高騰した時期には、原子力依存度が高かった地域ほど電力量料金が上がる傾向があります。
原発の状況が地域差を生む理由
原子力発電は燃料費が安定しているため、稼働している場合は電気料金を一定程度抑える効果があります。一方、停止が長期化すると火力依存が高まり、燃料価格の変動を受けやすくなるため、結果として地域差を生む要因となります。
つまり、原発の稼働状況は、その地域の電源構成と発電コストを左右し、電気料金の差につながる重要な要素となります。
地域差を生む燃料費調整制度の仕組み

電気料金には、火力発電で使用する燃料費(原油、LNG、石炭)の価格変動を電気料金に反映させる「燃料費調整制度」が導入されています。制度そのものは全国共通ですが、地域ごとに設定されている基準値の違いなどにより、エリア間で調整額に差が出ることがあります。
各エリアの「基準燃料価格」の違い
燃料費調整制度の計算の基準となる基準燃料価格は、電力会社が過去に調達した燃料価格実績に基づいて設定されます。この基準価格は、各電力会社(各エリア)の燃料調達構成や契約時期、調達方法などによって異なります。
基準燃料価格が低いエリアでは、現在の燃料価格が上昇した場合に調整額がより大きくプラスに振れることになります。逆に、基準価格が高いエリアは、価格変動の影響を相対的に受けにくい構造です。
この「スタートライン」の違いが、月々の燃料費調整額に地域差が出る理由の1つです。
火力発電の割合による違い
燃料費調整制度の対象となるのは、主に火力発電で使用される燃料費です。そのため、電源構成に占める火力発電の比率が高いエリアほど、国際的な燃料価格の変動が調整額を通じて電気料金全体に与える影響が大きくなります。
燃料費調整額が地域差につながる理由
制度は全国共通ですが、
- 基準燃料価格の違い
- 地域ごとの火力発電の割合
- 調達方法の違い
などが重なることで、同じ時期でも燃料費調整額に地域差が出る仕組みになっています。
つまり、「制度は同じでも、各エリアの事情によって結果が変わる」ため、地域差として現れるということです。
電力自由化後も残る地域差の理由
2016年の電力小売全面自由化により、誰でも電力会社を自由に選べるようになりました。しかし、自由化が進んだ現在でも、地域による電気代の差は完全にはなくなっていません。
その理由は、小売だけが自由化されても、電気を届ける仕組み自体は地域ごとに大きく異なるためです。
送配電網の利用料(託送料金)が地域で異なるため
電力小売が自由化されても、電気を届けるための送配電網は引き続き地域の大手電力会社が管理しています。新電力会社が電気を販売する場合でも、この送配電網を通して電気を運ぶ仕組みは変わらず、その利用料(託送料金)は地域によって異なります。
託送料金は、地域の人口密度や気象条件、設備の維持にかかるコストなどを反映して設定されるため、電気料金の地域差が生まれる大きな要因となっています。
需要と供給のバランスが地域ごとに異なるため
各地域の産業構造や人口密度、気候条件によって電力需要のパターンは大きく異なります。工業地帯が多い地域では日中の電力需要が高く、寒冷地では冬季の暖房需要が集中します。
こうした需要パターンの違いに対応するため、地域ごとに必要な発電設備や供給体制も変わり、その結果として電気の供給コストに差が生じ、地域別の電気料金にも影響が出ます。
JEPXエリアプライスの乖離と送電制約
電力自由化以降、多くの電力会社は日本卸電力取引所(JEPX)を通じて電気を調達しています。JEPXでは地域ごとに価格がつくため、需給状況によってエリア間で価格差が生まれることがあります。
この背景には、地域間をつなぐ送電線(連系線)の容量に限りがあり、電気を十分に融通できない場合があるという物理的な制約があります。発電量に余裕がある地域でも、隣接エリアへ送れる量が限られると、需要が高い地域で市場価格が上がりやすくなります。
そのため、小売会社が市場から調達する際のコストにも地域差が生じ、結果として電気料金の地域差につながることがあります。
連系線の増強は進められていますが、この制約がある限り、市場における地域差は継続する構造となっています。
事業者が取るべき対策

電気料金の地域差は、送配電インフラや電源構成、市場環境など、事業者側では変更できない要素によって生じています。
そのため、地域差そのものをなくすことは難しい一方で、地域特性を理解したうえで契約内容や電力の使い方を工夫することで、地域差の影響を抑えることは可能です。
ここでは、地域差を前提としたうえで、事業者が実践できる主な電気代削減策をご紹介します。
エリア特性に合った最適なプランを選択する
電気料金は、同じ使用量でも契約するプランによって、地域差の影響を受けやすいものと、比較的受けにくいものがあります。エリアごとの託送料金や市場価格の特性を踏まえ、料金変動の影響を抑えやすいプランを選ぶことが、地域差への有効な対策となります。
事業所の使用パターン(季節変動・時間帯・ピーク電力)に合ったプランを選ぶことで、地域特有のコスト上昇リスクを抑えることが可能です。
複数拠点企業では拠点ごとに最適化を図る
地域ごとに電気料金の構造が異なるため、複数拠点を一律の契約でまとめると、かえって非効率になるケースがあります。
拠点ごとにエリア特性を踏まえて最適化することで、地域差を前提にした合理的なコスト管理につながります。
電力使用量を見える化し、ピークを抑える
基本料金は最大デマンドによって決まるため、料金水準が高いエリアほどピーク管理の効果は大きくなります。
電力使用状況を可視化し、ピーク時間帯の使用を抑えることで、地域差によるコスト増を吸収する手段として有効です。
再生可能エネルギーの導入を検討する
自家消費型太陽光などを導入することで、購入電力量を減らし、市場価格や燃料費調整の影響を受けにくくなります。
これは、エリアごとの調達コスト差に左右されにくい電力利用構造をつくるという点で、長期的な対策になります。
電気代の地域差に関するよくある質問
電気料金の地域差について、よくある質問にお答えします。
Q:電気料金が最も高い地域はどこですか?
A:一般的に北海道エリアの電気料金が高くなる傾向にあります。石油火力発電の比率が高いことに加え、広大なエリアに送電インフラを維持する必要があること、厳しい気象条件による維持管理費用の増加などが主な理由です。
Q:なぜ北陸エリアの電気料金は安いのですか?
A:水力発電の比率が高く、燃料費の影響を受けにくいことが主な理由です。また、需要密度が比較的高く、送配電の効率が良い点も、電気料金を抑える要因となっています。
Q:複数の拠点がある場合は地域ごとに電力会社を変えるべきですか?
A:地域ごとに料金体系や市場環境が異なるため、拠点ごとに最適な電力会社やプランを選ぶことで、全体としてのコスト削減効果が高まるケースがあります。まずは各拠点の使用状況を把握することが重要です。
Q:燃料費調整額はどのくらいの頻度で変わりますか?
A:燃料費調整額は原油価格や為替レートの変動を反映し、原則として毎月見直されます。そのため、電気料金も月ごとに変動します。
電気代の地域差に合わせた対策を行おう

電気料金の地域差は、発電方法の違い、送配電インフラの構造、原子力発電所の稼働状況など、さまざまな要因が複雑に絡み合って生まれています。これらは、事業者側では簡単に変えられない構造的な要素でもあります。
その一方で、地域ごとの特性や料金の仕組みを正しく理解することで、契約内容の見直しや電力の使い方を工夫し、地域差の影響を抑えることは可能です。
事業者にとって電気料金は重要なコストの1つです。自社の立地や使用状況に合った対策を検討し、無理のない形で電気代の最適化を進めていきましょう。










