電気料金は、契約しているプランによって決まり方が異なります。電力会社があらかじめ設定する料金体系もあれば、需要と供給のバランスに応じた市場価格を踏まえて調整されるプランもあります。こうした需給を反映した価格形成の中心にあるのが、JEPXです。

JEPXは電力会社同士が電力を売買する日本唯一の卸電力取引所であり、市場価格の動きは電気料金にも少なからず影響を与えています。本記事では、JEPXの役割や電力取引の仕組み、各市場の特徴などを紹介します。

JEPXは日本で唯一の卸電力取引市場

2003年に設立されたJEPX(Japan Electric Power eXchange)は、日本で唯一の卸電力取引所であり、正式名称は「一般社団法人 日本卸電力取引所」です。

電力自由化以前は、各地域の大手電力会社が発電から小売までを一貫して担っていました。しかし、2000年度以降に小売が段階的に自由化され、多くの事業者が小売電気事業へ参入しています。

新規参入した小売電気事業者の多くは自社で発電設備を持たないため、需要に見合う電力を外部から調達する仕組みが欠かせません。こうした電力の調達・取引の選択肢として整備されてきたのが、「発電事業者と小売電気事業者が電力を取引できる場」であるJEPXです。

JEPXで電力の取引を行うには取引会員となる必要があり、一定の要件を満たす事業者のみが参加できます。取引会員数は拡大傾向にあり、2026年1月現在で353社とされています。

参考:取引会員情報 | 電力取引 | JEPX

JEPXにおける電力取引の基本的な仕組み

JEPXでは、電力が商品として売買されています。ここでは、電力がどのような流れで取引され、価格が決まるのかを詳しく解説します。

卸電力取引が行われている

JEPXで行われているのは、発電事業者が電力を「売り」、小売電気事業者などが「買う」卸電力取引です。一般の需要家(家庭・一般企業)が直接参加するわけではなく、電力会社など事業者同士が電力を取引する場として運営されています。

発電事業者は、自社で発電した電力のうち、余剰分や計画的に販売したい分を市場に出します。一方で小売電気事業者は、顧客へ安定して電気を供給するために必要な電力量を市場から調達します。

JEPXは売り手と買い手を結びつけ、取引を成立させる役割を担っているのです。

電力は30分単位で取引される

JEPXの取引で特徴的なのが、電力が30分単位の商品として扱われる点です。

電力は時間帯によって需要と供給のバランスが大きく変わるため、同じ価格のまま固定して取引を続けることは現実的ではありません。そこでJEPXでは、30分ごとに価格が形成される仕組みを通じて、その時点の需給を反映した取引を可能にしています

売り手と買い手の条件(価格・数量)が一致すれば取引成立となり、その価格が市場の指標としても参照されます。

電力価格は需要と供給によって決まる

JEPXの電力価格は、需要と供給の関係によって決まります。供給に余裕がある時間帯は価格が下がりやすく、反対に需要が供給を上回る局面では価格が上昇します

例えば、猛暑や厳寒で空調需要が急増すると、短時間で需要が膨らみ、需給がひっ迫して価格が大きく動くことも珍しくありません。こうした動きから、JEPXの価格は「その時点の需給状況を映す指標」としても位置づけられます。

JEPXの5つの取引市場とその役割

JEPXでは、電力の需給を細かく調整するために、複数の取引市場が用意されています。それぞれの市場で取引が行われるタイミングや目的、果たす役割が異なるため、状況に応じて使い分けられています。

スポット市場(一日前市場)

スポット市場は、JEPXの中でも最も取引量が多い市場です。翌日に使用する電力を前日までに取引する市場で、一日前市場とも呼ばれています。電力は30分単位で売買されます。

スポット市場の価格決定方式として採用されているのが、ブラインド・シングルプライスオークションと呼ばれる仕組みです。

売り手・買い手は互いの入札内容を事前に知ることができず、発電事業者は売り入札、小売電気事業者などは買い入札を行います。成立した取引はすべて同一の価格(約定価格)で決済され、必ずしも各参加者の入札価格通りに取引されるとは限りません。

スポット市場で立てた計画と当日の需給見込みには、天候や気温の変化などによって差が生じることがあります。こうした差を調整するために設けられているのが、時間前市場(当日市場)です。

時間前市場は24時間365日開場しており、受け渡しの1時間前まで取引が可能です。売り注文と買い注文の条件が一致した時点で取引が成立し、不足分・余剰分の調整に活用されます。

先渡市場

先渡市場は、将来の特定の期間に使用する電力をあらかじめ定められた条件で取引する市場であり、最大で3年先までの電力を購入できます。価格や取引条件が標準化されており、比較的わかりやすい形で取引が行われます。

取引する電力の価格をある程度把握できるため、価格変動のリスクを抑えたい事業者が利用するケースが多いです。

ベースロード市場

原子力・石炭火力・一般水力・地熱など、常時安定して発電できる「ベースロード電源」由来の電力が取引される市場です。

実施されるのは年4回(8月・10月・11月・1月)で、大手電力会社には一定量の電力をオークションに出品することが義務付けられています。スポット市場と同様、シングルプライスオークション方式が採用されています。

非化石価値取引市場

非化石証書を取引するための市場として2018年に開設された非化石価値取引市場では、電力そのものではなく、電気が持つ環境価値が取引されます

非化石証書とは、再生可能エネルギーや原子力など、化石燃料を使わずに発電された電気が持つ「CO₂を排出しない価値」を証書化したものです。購入することで、実際に使う電気が化石燃料由来であっても、使用電力のCO₂排出量を実質的に削減したとみなせます。

分散型・グリーン売電市場

2012年に開設された分散型・グリーン売電市場は、自家用発電設備やコージェネレーション設備(発電と熱供給を同時に行う設備)から生じる小口の余剰電力を取引する市場です。

最低取引単位が設けられておらず、売り手が価格や販売量、期間などを自由に設定できるほか、売電側はJEPXの取引会員でなくても参加でき、会費や手数料も発生しません。

なお、買電する場合はJEPXの取引会員である必要がありますが、JEPX自身が電力を売買することはありません。

スポット市場における価格形成の仕組み

スポット市場での市場価格は、以下のような様々な要因によって変動します。

  • 燃料価格の変動
  • 電力の需給バランス
  • 時間帯による需要の変化
  • 天候や季節の影響
  • 発電設備のトラブル

燃料価格が上昇すると発電コストが高くなるため、市場価格も上昇する傾向があります。また、電力需要に対して供給が不足すれば価格は上昇し、供給過多であれば価格は下落します

また、太陽光発電が活発な晴天時の昼間は供給量が増えるため市場価格が低下し、太陽光発電が稼働しない夜間は価格が上昇する傾向があります。特に夕方から夜間にかけては、家庭の電力需要が増加する一方で太陽光発電の供給がなくなるため、価格が上昇しやすいです。

季節的には、冷暖房需要が高まる夏や冬に価格が上昇し、春や秋の過ごしやすい時期には価格が下落する傾向が見られます。

さらに、地震などの災害で発電所が停止したり、大寒波の襲来で需要が急増したりすると、需給が一気にひっ迫して市場価格が大幅に上昇するリスクがあります。こうした突発要因は予測が難しいため、平常時の傾向とは切り分けて注視することが大切です。

過去のJEPX市場価格の推移と今後の見通し

ここ数年のJEPXスポット市場の年平均価格は、大きく変動しています。

2019年度は新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、エネルギー需要が落ち込んだ結果、年平均7.93円/kWhと、市場開設以来でも低い水準を記録しました。

2020年度は、年末から2021年初めにかけて発電所トラブルやLNG在庫の減少、強烈な寒波による需要増加などが重なり、市場価格が急騰しました。一時的には200円/kWhを超える水準となる場面も見られています。

2022年度はロシアによるウクライナ侵攻を背景に燃料調達環境が厳しくなったことに加え、急速な円安の進行もあり、年平均20.41円/kWhと高い水準となりました。2023年度以降は燃料価格の落ち着きとともに市場価格も下落傾向に転じ、2024年度に入ってからも比較的安定した水準で推移しています。

今後は再生可能エネルギーの導入拡大により、晴天時の昼間などでは市場価格が最低入札価格である0.01円/kWhに近づく時間帯が増えると予想されます。一方、異常気象のような外的要因により価格が急騰するリスクもあるため、常に動向に注目しておくことが大切です。

市場価格の急騰リスクはゼロではありませんが、先渡市場などの活用が進み、高騰リスクを抑えた電力プランの選択肢も広がっています。今後は市場の変動とうまく付き合いながら、安定的に電力を調達できる環境がより整っていく見通しです

JEPXの市場価格変動が電気料金に与える影響

JEPXの市場価格変動が電気料金に与える影響は、契約している電力プランによって大きく異なります。

市場価格連動プラン

市場連動型プランは、JEPXにおけるスポット市場の30分ごとの価格変動をそのまま電気料金に反映するプランです。市場価格が低い局面では電気料金も下がりやすい一方、市場価格が高騰すれば料金も上昇するリスクがあります。

実際、2020年度末~2021年初めや2022年度のように市場価格が高騰した時期には、想定を大きく上回る電気料金が請求されるケースも発生しました。市場環境に左右されるため、電力コストの見通しが立てにくい点にも注意が必要です。

市場価格を一部含むプラン

電力プランの中には、JEPXスポット市場価格を「市場価格調整項」として燃料費調整額(化石燃料の輸入価格変動を反映した調整額)の一部に含めるプランも存在しています。

市場連動型プランと比べると、市場価格の変動が電気料金に与える影響は限定的で、価格の振れ幅が比較的小さくなりやすい点が特徴です。

燃料価格と市場価格の両方が反映されるため、どちらか一方が上昇しても、もう一方が安定していれば急激な変動を抑えられる可能性があります。結果として、「市場の安さを活かしつつ、万が一の急騰による大損は避けたい」という、コストと安心感のバランスを重視する事業者にとって、非常に現実的な選択肢となります。

市場価格を含まないプラン

主に自社電源を持つ電力会社が提供している、JEPXスポット市場価格の影響を受けないプランです。契約単価が固定されており、燃料費調整額のみが変動要素として反映されます。

市場価格が安い時期には割高に見えることもありますが、市場価格高騰のリスクを回避でき、電力コストの見通しを立てやすいです。電力調達の安定性を重視する企業にとっては、おすすめのプランだといえます。

JEPXに関するよくある質問

JEPXに関するよくある質問に回答します。

Q:JEPXでの取引に一般企業は参加できますか?

JEPXの取引は会員制となっており、会員になれるのは電力事業者のみです。一般企業や個人が直接取引に参加することはできません。

Q:スポット市場の価格はどのように決まりますか?

スポット市場では、「ブラインド・シングルプライスオークション方式」により価格が決定されます。発電事業者と小売事業者がそれぞれ希望価格と電力量を入札し、需要曲線と供給曲線が交わった価格(約定価格)で取引されます。

Q:ベースロード市場が設立された理由は何ですか?

電力自由化以前は、コストが比較的低く安定供給が可能なベースロード電源のほとんどを大手電力会社が保有していました。新規参入した小売電気事業者がベースロード電源由来の電力を調達するハードルを下げ、市場の公平性を確保する目的で、2019年にベースロード市場が設立されました。

Q:非化石証書を購入する目的は何ですか?

非化石証書を購入すると、使用する電力が実質的にCO2を排出していないと証明することができます。企業の脱炭素経営や、環境に配慮した企業というブランド価値向上のために多く活用されています。

Q:市場価格が大きく変動する要因は何ですか?

主な要因として、化石燃料価格の変動、電力需給のひっ迫、天候の急変、季節要因、発電所のトラブルなどが挙げられます。特に夏冬の需要期や災害による発電所停止、燃料供給の不安定化などが重なると、市場価格が大きく変動しやすいです。

JEPXは電力自由化を支える上で欠かせない存在

JEPXは発電事業者と小売電気事業者が電力を取引するための卸電力市場であり、日本の電力自由化を支える重要な存在です。スポット市場をはじめとする複数の市場が需給調整や価格形成を担い、その動きは電力プランによって電気料金にも反映されます。

JEPXの仕組みを知ることは、単なる知識の習得ではありません。「今の契約プランが自社にとって本当に最適なのか」を見極め、納得感のある電力調達を実現するための、大切な判断基準になるはずです。