再生可能エネルギーの普及拡大に伴い、電力の需給バランスを調整する「出力制御」の実施が全国的に広がっています。出力制御は電力の安定供給を維持するための重要な仕組みですが、発電事業者だけでなく、電気を利用する需要家(自治体・法人)の電力コストや事業計画にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
本記事では、出力制御の基本的な仕組みから最新動向、需要家が取るべき対策までわかりやすく解説します。
出力制御とは?

出力制御の定義や必要な理由、重要性など基本的な情報を解説します。
出力制御は需給バランスを保つための「ブレーキ」
出力制御とは、電力の需給バランスを保つために、発電設備の出力を一時的に抑制する措置のことです。電気は大量に貯蔵することが難しく、発電量と消費量を常に一致させる必要があります。

POINT
発電量が消費量を大きく上回ると、電力系統の周波数や電圧が乱れ、最悪の場合は大規模停電につながってしまう。だからこそ、出力制御という「ブレーキ」が不可欠なのじゃ。
なぜ今、出力制御が増えているのか?
出力制御が増加している主な理由は、再生可能エネルギーの導入が急速に拡大しているためです。2050年カーボンニュートラルに向けて、太陽光発電や風力発電の設備容量は年々増加しており、晴天時や風況の良い日には発電量が需要を大きく上回る状況が発生しています。
特に春や秋は冷暖房需要が少ないため、需給ギャップが生じやすい季節です。加えて、送電線の容量不足も出力制御を必要とする要因となっています。
対象エリアの拡大
出力制御は2018年に九州電力エリアで本格的に実施されて以来、対象エリアが全国に拡大しています。2023年度までに東京電力エリアを除く9エリアで実施されており、2026年3月には東京電力エリアでも初めて実施されたことで、全国すべてのエリアに拡大しました。
出力制御量は2023年度に約18.8〜18.9億kWhに達し、2024〜2025年度も20億kWh前後の高水準が続くと見込まれています。もはや特定地域の問題ではなく、全国的な課題となっていると言えるでしょう。
出力制御のルールと優先順位

出力制御には、どの電力から優先的に実施するかを定めるルールが存在します。ここでは、出力制御のルールや優先順位について、詳しく解説します。
優先給電ルール
優先給電ルールとは、出力制御を実施する優先順位を定めたものです。まず火力発電の出力抑制や揚水発電の活用が行われ、次に他地域への送電、バイオマス発電の抑制と続きます。
太陽光発電や風力発電の出力制御は4番目に位置し、最後に水力・原子力・地熱といった長期固定電源が対象となります。このルールにより、調整しやすい電源から順に制御が実施される仕組みです。
実際の優先給電ルールに基づく対応は、以下の通りです。
- 火力(石油、ガス、石炭)の出力制御、揚水・蓄電池の活用
- 他地域への送電(連系線)
- バイオマスの出力制御
- 太陽光、風力の出力制御
- 長期固定電源(水力、原子力、地熱)の出力制御
3つの補償ルール(30日、360時間、指定ルール)の変遷
出力制御には補償に関する3つのルールがあり、接続申込時期や設備規模によって適用されるルールが異なります。当初は「旧ルール(30日ルール)」のみでしたが、再生可能エネルギー(再エネ)導入拡大に伴い「新ルール(360時間ルール)」が導入され、現在は「無制限無補償ルール(指定ルール)」が原則として適用されています。
ルールの変遷は、再エネ普及と系統運用の両立を図るための制度改正の歴史でもあるのです。
旧ルール(30日ルール)
旧ルールは、2015年1月25日以前に接続申込を行った発電設備に適用されるルールです。年間30日までは無補償での出力制御に応じる義務がありますが、31日目以降の出力制御については売電収入が補償されます。
注意点として、1日のうち1時間でも出力制御が行われれば1日としてカウントされるため、実際の制御時間が短くても30日の上限に達する可能性があります。
新ルール(360時間ルール)
新ルールは、2015年1月26日以降に接続申込を行った発電設備を対象とした制度で、年間360時間までは無補償での出力制御を受け入れることが条件です。旧ルールとの大きな違いは、日単位ではなく時間単位で制御時間をカウントする点にあります。
これにより、より細かい需給調整が可能になり、系統運用の効率化が図られました。
無制限無補償ルール(指定ルール)
無制限無補償ルールは、出力制御の時間に上限がなく、また制御に対する補償もないルールです。2021年4月以降、原則として新規接続案件に多く適用されています。
このルールでは、事業者は出力制御による収入減少を自ら負担する必要があるため、事業計画を立てる際には出力制御リスクを十分に考慮しなければなりません。
需要家(自治体・企業)に及ぼす「3つの影響」
出力制御が電気を買う側、あるいは自家消費する側の需要家にどのような影響を与えるのか、具体的に解説します。
- オンサイトPPA・自家消費への影響
- 脱炭素目標(再エネ比率)の未達リスク
- 再エネ賦課金・託送料金への間接的影響
オンサイトPPA・自家消費への影響
オンサイトPPAや自家消費型太陽光発電を導入している事業者にとって、出力制御は電気料金の削減効果を減少させる要因となります。出力制御が実施されると、本来自家消費できたはずの電力が利用できず、その分を電力会社から通常価格で購入する必要が生じるためです。
特に九州や中国エリアでは出力制御率が高く、想定していた経済効果が得られないケースも発生しています。導入計画時には出力制御を織り込んだ厳しめのシミュレーションが不可欠です。
脱炭素目標(再エネ比率)の未達リスク
企業や自治体が掲げる脱炭素目標の達成にも、出力制御は影響を及ぼします。RE100やSBTといった国際的なイニシアチブに参加する企業、あるいはゼロカーボンシティを宣言する自治体は、再エネ比率の向上を公約していますが、出力制御により計画していた再エネ電力量が確保できない可能性があります。
特にオフサイトPPAで系統に電力を流す場合、出力制御の対象となるため、目標達成のスケジュールに遅れが生じるリスクがあり、対外的な説明責任を果たす上での懸念材料となります。
再エネ賦課金・託送料金への間接的影響
出力制御の増加は、再エネ賦課金や託送料金といった電力コストに間接的な影響を与える可能性があります。出力制御により再エネ電力が有効活用されないと、FIT制度の買取費用の効率が低下し、結果として賦課金の単価上昇につながる恐れがあります。
また、出力制御対策のための系統増強費用は託送料金に転嫁される可能性もあり、電力を利用するすべての事業者にとって看過できない問題といえます。
出力制御リスクを最小化する対策

出力制御による影響を軽減するために、需要家自身が検討・実施すべき具体的な対策について解説します。
ハード面の対策:蓄電池の活用と「逆潮流」制御
出力制御リスクを軽減する最も効果的なハード対策は、蓄電池の導入です。出力制御が見込まれる時間帯に発電した電力を蓄電池に充電し、需要が高まる時間帯に放電することで、捨てられるはずだった電力を有効活用できます。
特に自家消費型太陽光発電では、逆潮流(系統への電力流出)を制御することで出力制御の対象外となるケースもあります。蓄電池は初期投資が必要ですが、長期的には予算の予見性を高める重要な設備といえるでしょう。
ソフト面の対策:オンライン代理制御への対応
オンライン代理制御は、2022年4月から導入された新しい仕組みです。オンライン制御が可能な発電所が、オフライン制御しかできない発電所の出力制御を代わりに実施し、後から経済的な精算を行うというものです。
需要家がPPA等で調達する電源がこの仕組みの対象となる場合、間接的な精算コストが発生したり、逆に制御量が緩和されたりするケースがあります。自社の契約する電源がオンライン制御に対応しているかを確認することは、リスク管理の観点から有効な手段なのです。
契約・運用面の対策:リスクを見越した「収支シミュレーション」
出力制御リスクに備えるには、事前の収支シミュレーションが欠かせません。電力会社が公表している出力制御の見通しや過去の実績データをもとに、保守的なシナリオで事業性を評価することが重要です。
特に無制限無補償ルールが適用される案件では、出力制御による収入減少(あるいは買電量増加による支出増)を織り込んだ上で投資判断を行う必要があります。また、PPAやリース契約の条件交渉時に、出力制御時の負担配分を明確にしておくことも求められます。
複雑化する電力市場で「安定」と「脱炭素」を両立するには

出力制御による影響を軽減するためには、複雑化する電力市場の動きを素早く正確に把握し、柔軟に対応できる体制を整えることが重要です。具体的には、以下の3つのポイントを押さえておきましょう。
「最安値」の追求から「最適解」の選択へ
電力調達において、単純に「最安値」を追求する時代は終わりを迎えつつあります。出力制御や燃料価格の変動、制度改正など、電力市場を取り巻く環境は複雑化しています。
重要なのは、自社の事業特性やリスク許容度を踏まえた「最適解」を選択することです。目先のコスト削減と脱炭素目標の達成、さらに供給安定性を総合的に評価し、バランスの取れた電力調達戦略を構築する必要があります。
専門的な「第三者視点」を取り入れる
電力市場の専門知識を持たない企業や自治体が、独力で最適な調達戦略を立案するのは容易ではありません。市場の動向や契約実務に精通した外部パートナーの知見を活用することで、出力制御リスクを含めた包括的な評価が可能になります。
電力会社(売る側)とは異なる第三者の客観的な視点は、社内では見落としがちなリスクを顕在化させ、より堅実な意思決定を支援してくれるはずです。
調達業務を「作業」から「経営戦略」へ
電力調達を単なる「コスト管理の作業」と捉えるのではなく、「経営戦略の一環」として位置づける発想の転換が求められています。出力制御への対応は、脱炭素目標の達成やBCP(事業継続計画)の強化、さらには投資家や取引先、あるいは地域住民からの評価向上にもつながります。
経営層や首長が電力調達の重要性を理解し、適切なリソースを配分することが、持続可能な事業運営の鍵となるのです。
出力制御への備えが事業の安定につながる
出力制御は、再生可能エネルギーの普及拡大に伴う避けられない課題であり、今後も全国的に継続する見通しです。電力の安定供給を維持しながら脱炭素社会を実現するには、需給バランスの調整が不可欠であり、出力制御はそのための重要な仕組みといえます。
事業者にとって出力制御は、電力コストや脱炭素目標の達成に影響を及ぼす重大な要因ですが、適切な理解と対策により、そのリスクを最小化することが可能です。蓄電池の導入やオンライン制御への対応、さらには外部の専門家との連携により、変化する電力市場に柔軟に対応していくことが求められています。
複雑化する電力市場において、隠れたリスクを洗い出し、最適な調達戦略の構築や脱炭素目標の達成に向けて、ぜひ専門家の知見をご活用ください。

















