2026年3月、イランへの軍事攻撃をきっかけに中東情勢が一気に緊迫化し、エネルギー市場にも大きな動揺が広がりました。
ホルムズ海峡の封鎖宣言と通航量の急減、原油価格の急騰を受けて、「このまま電気料金も上がるのではないか」と不安を抱く企業や自治体は少なくありません。
本記事では、中東・イラン情勢が日本の電気料金に影響する仕組みや、今後の電力スポット価格(JEPX)の見通し、そして法人・自治体が今とるべき具体的な対策を解説します。
この記事のポイント
本記事では、主に下記のような内容について詳しくまとめています。
- 電気料金への反映は「夏前」から本格化する見通し。ただし法人向け契約では、すでに4月使用分から影響が出始めているケースもある
- 電力会社の対応は二極化しており、固定価格の提案が市場から消え始めている。「様子見」は選択肢を狭めるリスクになり得る
- 「情勢が落ち着けば元に戻る」とは限らない。燃料費調整制度のタイムラグにより、沈静化後も数ヶ月間は高止まりする構造がある
中東・イラン情勢がなぜ電気代に影響するのか

「中東で起きている紛争が、なぜ日本の電気料金にまで影響するのか」と疑問に感じる方も多いでしょう。本章では、電気料金に影響が及ぶ理由を3つ紹介します。
日本の電源構成の弱点
日本の発電電力量に占める火力発電の割合は、2024年度時点で約70%。発電の中心が依然として化石燃料に依存しています。
参考:令和6年度(2024年度)エネルギー需給実績(速報)|経済産業省
日本は燃料の多くを輸入に頼っているため、中東で軍事的緊張が高まり、原油やガスの供給懸念が広がると、日本の電力コストも連動して高騰しやすい構造にあります。
海外の資源価格や供給不安が、そのまま国内の発電コストに反映されやすいこの構造は、日本のエネルギー安全保障上の大きな弱点といえるでしょう。
原油高が「天然ガス」も押し上げる
今回の状況において特に重要なのは、原油価格の上昇が原油だけにとどまらず、LNG(液化天然ガス)価格にも波及しやすい点です。
日本の火力発電で最も大きな比率を占めるのはLNGですが、LNGの長期契約価格には原油価格に連動する仕組み(JCCリンクと呼ばれる原油価格連動方式)が多く採用されています。そのため、原油が高騰すると、時間差を伴いながらLNGの調達コストも上がりやすくなります。
さらに、今回の中東情勢ではホルムズ海峡の通航障害が市場不安を一段と強めました。ホルムズ海峡は世界の石油輸送の約2割、LNG輸送の大きな割合を担う要衝であり、その機能不全はエネルギー市場全体に強い緊張を与えます。
加えて、LNGは石油と異なり液化設備や専用タンカーが必要なため、代替ルートでの調達が容易ではありません。日本は原油だけでなく、LNGについても海外依存度が高いため、調達経路に不安が生じるだけで発電コスト全体の押し上げにつながるのです。
不安が価格を動かす
エネルギー市場において重要なのは、「実際に燃料が届かなくなってから」ではなく、「届かなくなるかもしれない」と市場が判断した時点で価格が動くという点です。つまり、供給停止そのものよりも、供給不安が先に価格へ織り込まれます。
今回も、ホルムズ海峡の封鎖宣言や中東情勢の悪化が報じられた段階で、原油価格や関連市場が大きく変動しました。
この動きは電力市場にも波及しています。LNGや石炭など発電燃料のコスト上昇懸念が強まれば、卸電力市場であるJEPXのスポット価格にも上昇圧力がかかります。
特に市場連動型の電力契約を利用している企業は、こうした市況変動の影響をより早く受ける点に注意が必要です。今後も電気料金への影響が続く可能性を前提に、早めの対策を講じることが求められます。
電気代は「いつ」上がる?気になるタイムラグ

原油やLNGの価格高騰が電気料金に反映される時期は、制度上のタイムラグがあるため直感的には分かりにくいものです。しかし、コスト管理や契約見直しの判断には、この仕組みの理解が欠かせません。
電気料金が上昇するタイミングについて、要点を絞って解説します。
「直ちには上がらない」理由
電気料金には「燃料費調整制度(燃調)」が組み込まれており、これがタイムラグの主な要因となっています。この制度は、LNG・石炭・石油といった燃料の輸入価格の変動を、一定期間の平均値をもとに算定し、電気料金に反映するという仕組みです。
具体的には、貿易統計に基づく燃料のCIF価格(保険料・運賃込みの輸入価格)を一定期間で平均し、その結果を数ヶ月後の電気料金に適用します。
算定期間や適用までの期間は電力会社や契約プランによって異なりますが、一般的には燃料価格の変動から電気料金への反映まで数ヶ月のタイムラグが生じます。
そのため、2026年3月に原油やLNG価格が急騰したとしても、その影響がその月の電気料金に即座に反映されることはありません。価格の上昇はあくまで平均化され、段階的に料金へ反映されていきます。

POINT
「燃料価格の上昇がニュースで取り上げられている=今月の電気料金がすぐ上がる」というわけではない。実際には少し遅れて影響が出てくる点を理解しておくのじゃ。
電気料金への影響は「夏前」から本格化
今回の燃料価格の急騰が電気料金に反映されるのは、早ければ6月〜7月頃と見込まれます。燃料費調整制度には数ヶ月のタイムラグがあるため、3月の高騰がすぐには請求額に表れず、夏前にかけて段階的に影響が顕在化する形です。
電気事業連合会も2026年4月10日の会見において、「ホルムズ海峡の一時的な封鎖によって、燃料不足や価格高騰リスクが顕在化した」と言及しており、業界としても影響の波及を正面から認識している状況です。
今はまだ影響が見えにくい段階であっても、数ヶ月後の請求額には確実に反映されてくるでしょう。さらに注意すべきは、仮にその後市場が落ち着いたとしても、「高騰していた期間の価格」が平均値に含まれている限り、電気料金はしばらく高止まりするという点です。
電気料金は遅れて高騰しやすいコストであるため、短期的なニュースだけで判断せず、中期的な視点で影響を見積もっておくことが重要です。
企業向けは影響が早いケースも
法人契約の場合、タイムラグが短くなるケースもあります。特に高圧・特別高圧においては、燃料価格や市場価格の変動をより早く料金に反映する仕組みが採用されていることもあります。
また、市場連動型プランを利用している場合は、JEPX(卸電力市場)のスポット価格が直接電気料金に影響します。今回のような価格上昇局面では、すでに電気料金が上がり始めている可能性が高いです。
さらに、新規見積や契約更新の場面では、すでに電力会社が将来の価格上昇リスクを織り込んだ単価を提示しているケースもあります。つまり、実際の請求額が上がる前の段階から、実質的なコスト増の影響はすでに始まっているのです。
自社の契約内容と市場状況を照らし合わせ、影響の出方を具体的に把握しておくことが、次の章で述べる対策の前提になります。
電力会社の対応が分かれている──その背景と見極め方

現在、中東情勢を受けた電力各社の対応には明確な差が出ています。その背景にあるのは、各社の電源構成の違いです。
なぜ対応に差が出るのか──電源ポートフォリオとポジション
電力会社の対応に差が生まれる最大の要因は、「どのように電気を調達しているか」という電源ポートフォリオの違いです。
電力会社は、自社の発電設備による発電、他社との長期契約による調達、そしてJEPXなどの市場からの調達を組み合わせて電気を供給しています。
自社電源や長期契約の比率が高い会社は、電気を安定的に確保できている「ロングポジション」の状態にあり、市況が急変しても比較的安定した価格を提示しやすい傾向があります。
一方で、市場からの調達に依存している会社は、「ショートポジション」となりやすく、市場価格が上昇すると調達コストがそのまま上がってしまいます。そのため、固定価格での提案が難しくなり、価格転嫁や市場連動型への誘導が不可欠です。
この「ロング/ショート」の違いが、以下に述べる対応の4タイプを生み出しています。
電力会社の対応は4タイプに分かれている

電力会社の対応は、以下4つのタイプに大別できます。
固定停止型
市場リスクを回避するために固定料金プランの提供を停止し、市場連動型プランへの切り替えを促すタイプです。市場依存度が高い会社に多く見られます。利用者にとっては、価格変動リスクを自社で負うことになります。
値上げ型
コスト増加分を従量単価や提案価格に転嫁することで固定メニューを維持するタイプです。
提案は継続されますが、見積価格が直近数ヶ月で大きく上昇しているケースが多くなっています。次回の契約更新時に大幅な値上げを提示される可能性も視野に入れておく必要があります。
慎重運用型
見積の有効期限を極めて短く設定して(数日〜1週間以内)、有効期限切れ後の再交渉にも応じないタイプです。
見積を出してはくれるものの、以前より大幅に高くなっているケースが多く見られます。意思決定に猶予がほとんどないため、社内の決裁フローを事前に整えておかなければなりません。
攻勢型
自社電源に余力がある会社が、市況変動をチャンスと捉え、積極的に固定価格で新規顧客の獲得を進めるタイプです。他社が撤退する中で競争優位を取りにいく戦略といえます。
今の市況下では、こうした電力会社を見つけられるかどうかが、コスト管理の成否を分ける一つの鍵になります。
こうした電力会社ごとの対応差を理解したうえで、次章の具体的な対策に進みましょう。
法人・自治体が今からとるべき3つの対策

電力市場の変動はすでに始まっており、今後の電気料金上昇は避けにくい状況です。しかし、早い段階で正確な情報を把握し、適切に動くことで、影響を最小限に抑えることも不可能ではありません。法人・自治体が今すぐ着手すべき3つの対策を解説します。
現在の電力契約のリスクを「見える化」する
まず最初に取り組むべきなのは、自社の電力契約内容の把握です。現在の契約が固定型なのか市場連動型なのかによって、今後の電気料金の変動リスクは大きく異なります。
固定型契約であれば、契約期間中は価格が一定に保たれるため、短期的な影響は限定的です。しかし、契約更新時には市場価格が反映されるため、更新タイミングが重要な判断ポイントになります。
一方で、市場連動型契約の場合は、JEPXのスポット価格の変動が直接反映されるため、すでに価格上昇の影響を受けている可能性があります。
まずは契約タイプ、契約期間、更新時期、解約条件、そして燃料費調整の算定方式といった基本情報を確認した上で、自社がどの程度のリスクにさらされているのかを明確にすることが重要です。
契約書の読み解きや燃調の構造理解が難しい場合は、電力の調達に詳しい第三者に契約診断を依頼するのも有効な手段です。
コスト増の影響額を電力会社や専門家に確認する
今回の市況変動が自社の電気料金にどれだけ影響するのかを、具体的な数値で把握することも大切です。
燃料費調整制度の計算方法や影響度は電力会社ごとに異なり、自社だけで正確に試算するのは容易ではありません。契約している電力会社や電力調達の専門家に問い合わせて、今後3〜6ヶ月程度のコスト上昇見込みを確認しましょう。
「月額でいくら増える可能性があるのか」「年間でどの程度のコスト増になるのか」といった具体的な数字を把握することで、予算管理や経営判断の精度が大きく向上します。感覚ではなく定量的なデータをもとに動くことが、この局面では特に重要です。
自治体の場合は、施設ごとの契約条件の違い(入札時期・契約形態)を整理したうえで、予算全体への影響額を把握することが求められます。当初予算で想定した電力単価との乖離が見込まれる場合は、早い段階で補正予算の要否を検討しておかなければなりません。
「燃料費調整制度の構造上、○月から影響が顕在化する見通しである」という形で試算の根拠を整理しておくと、議会や上長への説明にも活用しやすくなります。
見直しの意思決定を「前倒し」する
意思決定を素早く行うことも重要です。現在のように市況が不安定な局面では、「様子を見る」という判断自体がリスクになる可能性があります。
既に、固定価格での契約が可能な電力会社は限られており、時間が経つほど選択肢は減りやすいです。見積の有効期限も短くなっているため、好条件の提案があっても、意思決定が遅れれば機会を逃しかねません。

POINT
早い段階で複数社から見積を取得して、比較検討を進めておくことが有効じゃ。社内の決裁フローや判断基準も事前に整理し、迅速に意思決定できる体制を整えておく必要もある。情報収集だけでも早めに行うのじゃ。
中東・イラン情勢と電気代に関するよくある質問

中東・イラン情勢と電気料金に関するよくある質問に回答します。
Q:中東情勢が落ち着けば電気代はすぐ下がりますか?
すぐに下がる可能性は低いです。電気料金には燃料費調整制度があり、一定期間の燃料価格の平均値をもとに算定されるため、一時的に情勢が落ち着いたとしても、その影響はすぐには反映されません。
「高騰していた期間の価格」が平均値に含まれている限り、電気料金はしばらく高止まりします。「情勢が安定したから電気料金もすぐ下がる」と考えるのは適切ではなく、中期的な視点でコストを管理していくことが欠かせません。
Q:固定料金プランに切り替えれば安心ですか?
固定料金プランは価格変動リスクを抑える手段として効果的ですが、電気料金変動の影響を完全に回避できるとは限りません。現在の市況では、電力会社が提示する固定価格にはすでに将来の価格上昇リスクが織り込まれていることが多いです。
また、「固定」と名がついていても、燃料費調整額が別途変動する契約や、一定条件で価格改定が可能な条項が含まれるケースもあります。「何が固定されていて、何が変動するのか」を契約書で確認することが不可欠です。
契約期間終了後には再度価格交渉が必要になるため「一度契約すれば長期的に安心」というわけでもありません。複数社の見積を比較し、価格水準や条件を見極めた上で判断することが重要です。
Q:市場連動型プランを利用していると影響はより大きいですか?
市場連動型プランは、JEPXのスポット価格に連動して料金が変動する仕組みのため、今回のような価格上昇局面では影響を受けやすい傾向があります。固定型と比較すると、価格上昇がより早く、かつ直接的に反映される点が特徴です。
ただし、市場価格が安定・下落する局面ではコストメリットが得られるため、一概に不利とはいえません。重要なのは、自社の使用パターンやリスクの許容度に応じて、適切な契約形態を選択することです。
Q:電力会社の切り替えを今検討するのはリスクがありますか?
「動くリスク」よりも「動かないリスク」のほうが大きい局面です。現在は市況の変動が激しく、固定価格の提供を停止する電力会社も増えているため、時間が経つほど選択肢が減る傾向にあります。
また、見積の有効期限も短縮されているため、良い条件が提示されても意思決定が遅れると機会を逃してしまうケースもあります。現時点で契約変更を決断しない場合でも、複数社の見積を取得しておくことは、将来の選択肢を確保する上で効果的です。
中東情勢の影響を正しく理解して先手の経営判断を
中東・イラン情勢による影響は、現時点では電力供給そのものが止まる「供給危機」ではなく、将来的な供給不安を市場が先行して織り込む「価格ショック」の段階にあります。
しかし、価格上昇の影響は、数ヶ月後の電気料金に確実に反映されていきます。今の段階で自社の契約状況やリスクを把握し、必要に応じて対策を講じることが重要です。

POINT
電力コストは企業や自治体にとって継続的に発生する固定費で、その変動は利益や予算に直結する。外部環境の変化を「コントロールできないもの」として受け身で捉えるのではなく、今こそ調達方法や契約内容の見直しを通じてリスクを管理できる領域として捉え直すことが求められているのじゃ。
まずは、現在の契約内容にどの程度のリスクがあるのかを正確に把握すること、それが最も確実な第一歩です。
エネリンクでは、法人・自治体向けに電力契約の無料診断を実施しています。現在の契約リスクの可視化や、市況を踏まえた見直しタイミングのご相談だけでも、お気軽にお問い合わせください。
















