厳しい暑さや寒さが続くと、ニュースで「電力の予備率」という言葉を目にする機会が増えます。数値が低いほど電力需給に余裕がないことを示しますが、自社の予算管理や事業継続にどこまで影響するのか、分かりにくいと感じる方もいるでしょう。
企業や自治体にとって予備率は、電力システム全体の需給状況を把握し、電気料金の変動や停電に備えるための重要な判断材料です。ここでは、予備率の基本的な見方を整理し、契約面と設備・運用面からリスクを抑える実務的な方法を解説します。
電力予備率とは?知っておくべき基礎知識

「予備率」と聞くと、発電所に蓄えられた電気の割合をイメージするかもしれません。実際には、ある時間帯の需要に対し、供給力にどれほど余裕があるかを表す数値です。基本的な計算式は、次のとおりです。
予備率(%)=(供給力-需要)÷需要×100
電力の予備率が重要な理由
電気は需要と供給を常に一致させる必要があり、予備率が低いと、想定を上回る需要や発電設備のトラブルが発生したときに対応できる余地が小さくなります。現在は、エリア間の電力融通を踏まえた「広域予備率」が、需給状況を判断する主な指標として用いられています。
安定供給に最低限必要とされる目安は「3%」

予備率3%は、安定供給のために最低限必要とされる水準です。ただし、3%あればどのような状況でも安心という意味ではありません。発電所の計画外停止や急激な気温変化などが重なると、需給見通しが短時間で悪化することもあります。

POINT
需給ひっ迫注意報や警報は、追加供給力対策を反映しても需給が厳しいと見込まれる場合に発令されるのじゃ。
そのため、中長期の需給検証で示される予備率と、前日・当日の広域予備率を単純に同じものとして比較してはいかんぞ。
予備率と使用率の違い
予備率は「需要に対して、供給力がどれだけ余っているか」を表します。一方、使用率は「供給力のうち、需要がどの程度を占めているか」を示す指標です。
| 指標 | 計算の考え方 | 分かること |
|---|---|---|
| 予備率 | (供給力-需要)÷需要 | 需要に対する供給余力 |
| 使用率 | 需要÷供給力 | 供給力が使われている割合 |
供給力1,030万kW、需要1,000万kWの場合、予備率は3%ですが、使用率は約97.1%です。分母が異なるため、予備率と使用率は単純に足して100%になるわけではなく、両者はそれぞれ別の視点から需給の余裕を示す指標です。
数字が下がるとどうなる?企業・自治体にかかる主な影響

予備率の低下が直ちに停電を意味するわけではありません。しかし、需給に余裕がなくなるほど、コスト管理と事業継続の両面で厳格な備えが求められます。
卸電力市場価格が上昇し、契約によって電気料金に波及するリスク
予備率そのものが卸電力市場価格を決めるわけではありません。ただし、供給力に対して需要が大きくなるなど、電力需給がタイトになる局面では、卸電力市場価格が急激に上昇する場合があります。特に、猛暑・厳寒による需要増加と発電設備の停止、再生可能エネルギーの出力低下などが重なった時間帯は、価格変動が大きくなる可能性があります。
また、卸市場価格の上昇が需要家の電気料金にどの程度影響するかは、契約内容によって異なります。予算超過を防ぐためには、予備率の数字だけを見るのではなく、自社の契約が市場価格や燃料価格の変動リスクをどの程度内包しているかを確認することが重要です。
電力需給ひっ迫注意報・警報が出た時の要請内容
電力需給ひっ迫注意報は、あらゆる追加供給力対策を講じても広域予備率が5%を下回る見通しの場合、警報は3%未満となる見通しの場合に、いずれも前日16時を目途に資源エネルギー庁から発令されます。また、前々日の段階で広域予備率が5%を下回る見通しとなった場合には、一般送配電事業者から「需給ひっ迫準備情報」が発信される仕組みとなっています。
発令時には、対象エリアと需給が厳しくなる時間帯が示され、空調や照明、使用していない設備などについて、生活や経済活動に支障のない範囲で最大限の節電協力が求められます。企業や自治体では一律に設備を停止するのではなく、人命や行政サービス、生産活動への影響を踏まえ、止められない負荷を事前に整理しておくと迅速な判断が可能になります。
万が一の停電・供給制限への備え
需給ひっ迫がさらに進むと、大規模停電を避けるため、最終手段として計画停電が検討される場合があります。企業や自治体では、予備率が下がってから対応を考えるのではなく、平時に停電時の優先順位を決めておくことが経営上の責務です。
サーバー、医療・福祉設備、通信設備、給排水設備など、継続が欠かせない負荷を特定しましょう。そのうえで、UPS、非常用発電機、蓄電池の対応時間を整理し、燃料や保守体制、担当者への連絡方法、復電後の再起動手順までBCPに落とし込んでおくと、短時間の停電だけでなく長期化にも対応しやすくなります。
2026年の電力見通しと気をつけるべき時期

季節全体で安定供給に必要な水準を確保する見通しであっても、エリアや時期によって需給の余裕は異なります。また、需給見通しは発電設備の稼働状況などによって更新されるため、実務では公表時点にも注意しながら、季節前の見通しと前日・当日の情報を使い分けることが重要です。
夏・冬のピーク期とエリアごとの特徴
2026年度の夏季は、10年に一度の厳しい暑さを想定しても、全エリアで最低限必要な予備率3%を確保できる見通しとされ、政府による夏季の節電要請は見送られています。
続く冬季も、事前の需給見通しでは、厳しい寒さを想定した需要に対して全エリアで3%を確保する想定です。ただし、1月には複数エリアで5.3%となる見通しが示されており、暖房需要が集中する寒波の時期は継続的な動向確認が必要になります。
参考:資源エネルギー庁「2026年度の電力需給見通しについて」
リスクに備える!企業・自治体ができる解決策

需給ひっ迫への対応は、単に使用量を減らすことだけではありません。電気料金の決まり方と、施設ごとの使用特性を照らし合わせる戦略的な視点も必要です。
電力契約のリスク確認とDRの活用
卸電力市場の価格変動が電気料金に反映されやすい契約では、市況によって予算が想定以上に増える可能性があります。まずは現在の料金算定式を確認し、価格変動リスクが自社・自治体の許容範囲に収まっているかを見極めたうえで、必要に応じて契約の見直しを検討します。
比較する際は、電力量料金単価だけでなく、単価の固定期間、市場価格・燃料価格を反映する調整項、変動幅の上限などを確認すると判断しやすくなります。予算の確実性を重視する施設では価格変動を抑えた契約が候補となる一方、価格変動を一定程度許容でき、使用時間帯を柔軟に変更できる施設では、市場価格を反映するプランを活用できる場合もあります。
特に自治体では、単純な料金の高低だけでなく、料金算定方法や変動要因、契約条件を同じ基準で比較し、なぜその契約を選定したのかを説明できる状態にしておくことが、調達の透明性や説明責任の観点から重要です。
さらに、DR(デマンドレスポンス)契約を活用して節電を単なる「負担」から『報酬(インセンティブ)』に変える仕組みづくりも非常に重要です。要請に応じて自動制御などで無理なく使用量を抑制すれば、コスト削減と収益化を同時に実現できます。
電力予備率に関するよくある質問

最後に、企業や自治体の電力調達担当者が迷いやすい点を整理します。
Q:電力予備率は自社の電力使用量から計算できますか?
計算できません。公表される予備率は、エリア全体の想定需要と供給力から算出されます。自社データから確認できるのは使用量や最大需要電力などであり、需給状況には電力広域的運営推進機関の公表値を用います。
Q:「ひっ迫注意報」が出た場合、節電は義務ですか?
注意報に伴う通常の節電要請は、原則として協力の呼びかけであり、一律の法的義務ではありません。ただし、個別に締結しているデマンドレスポンス契約や、別途発令される法令に基づく電気使用制限とは扱いが異なります。
企業や自治体では、業務やサービスへの影響を踏まえて「どの設備なら、どの程度、どの時間帯に使用量を抑えられるか」をあらかじめ整理しておくことが重要です。DRを利用する場合も、設備の運用条件やインセンティブの算定方法、発動時の対応義務などを確認したうえで判断しましょう。
Q:社内報告や議会説明にはどの数字を使えばいいですか?
電力広域的運営推進機関などが公表する広域予備率を基本とし、対象エリア、対象日時に加えて、公表日時や資料名を併記すると情報の透明性が高まります。季節全体の説明には国や同機関の需給検証、直近の対応判断には前日・当日の広域予備率を使い分けるとよいでしょう。
予備率を「見るだけ」で終わらせず、契約・運用・BCPの見直しに生かそう
電力予備率は、自社だけで改善できる数値ではありません。しかし、その動きを把握しておけば、需給が厳しくなる前に節電体制やBCPを確認し、電気料金の変動にも備えやすくなります。
実務では、最新の予備率だけを追うのではなく、施設ごとの止められない設備、電力を多く使う時間帯、契約上の価格変動条件を一緒に整理することが出発点です。複数施設を抱える企業や自治体では、すべての施設に同じ契約を一律に適用するのではなく、それぞれの負荷特性や運用条件、予算方針に合わせて契約条件を検討する方法もあります。
単に「節電要請に応じて我慢する」という負担に終わらせず、DR契約等を活用して『報酬』へと転化させる仕組みを整えることが、これからのエネルギー管理の鍵となります。
契約書や料金算定式だけでは価格変動リスクを判断しにくい場合や、複数施設の使用特性まで含めて比較したい場合は、電力調達と使用実態の双方を確認できる専門家に相談することも選択肢の一つです。客観的な比較軸を設けることで、調達の公平性・説明可能性と予算の安定性を両立し、事業継続に備えていきましょう。
















