送電線や変電所などの設備は、電気を安定して届けるために欠かせません。一方で、老朽化した設備の更新や再生可能エネルギーの受け入れには、継続的な投資が必要です。その費用のあり方を決める仕組みとして、2023年度から「レベニューキャップ制度」が導入されました。
レベニューキャップ制度は、小売電気事業者の販売収入や電気料金そのものに上限を設ける制度ではありません。一般送配電事業者の収入上限を国が承認し、その範囲で託送料金を設定する仕組みです。
本記事では、レベニューキャップ制度の目的や料金への伝わり方に加え、法人・自治体が予算計画で押さえておきたい視点までわかりやすく整理します。
レベニューキャップ制度とは?

「レベニュー」は収入、「キャップ」は上限を意味します。ただし、単に一般送配電事業者の収入を抑える制度ではなく、必要な設備投資とコスト効率化を両立させるための料金規制として設計されています。
制度の全体像|送配電会社の収入上限を国が承認する制度

レベニューキャップ制度とは、一般送配電事業者が5年間の事業計画と必要費用を示し、経済産業大臣の承認を受けた収入上限の範囲で託送料金を設定する制度です。対象となるのは送配電事業の収入であり、小売電気事業者が需要家へ請求する電気料金全体を直接決めるものではありません。
送配電事業は、地域ごとに一般送配電事業者が独占的に担う、公共性の高いインフラです。自由な競争だけで料金水準を調整することが難しいため、国による審査と定期的な評価を組み合わせ、必要な収入と需要家負担のバランスを図っています。
導入された背景|設備更新・再エネ・災害対策への投資需要
制度が導入された背景には、送配電網の更新や増強に必要な費用を、継続的かつ計画的に確保しなければならない状況があります。
高度経済成長期に整備された設備の更新に加え、太陽光・風力発電の受け入れに向けた系統増強や、自然災害に備える設備の強靱化も求められ、一般送配電事業者に必要な投資の範囲が広がっていることが大きな要因です。
レベニューキャップ制度の仕組み
収入上限は、一般送配電事業者が希望した金額をそのまま認めるものではありません。事業計画に必要な費用や効率化の余地を審査したうえで決まり、規制期間中も計画の進捗や収支が確認されます。
5年間の事業計画で収入上限が決まる流れ
一般送配電事業者は、安定供給や再エネ導入、設備更新などの目標を含む5年間の事業計画を作成し、その実施に必要な費用を「収入の見通し」として申請します。国は、設備投資費、人件費・委託費、事業報酬などを審査し、適正と認めた範囲を収入上限として承認します。
承認後、一般送配電事業者は収入上限を超えないように託送料金単価を設定します。原則として規制期間内の料金を安定させる考え方ですが、制度変更や需要の変化、事業者の裁量では吸収しにくい費用の増減が生じた場合は、収入上限や料金が期中に見直されることもあります。
総括原価方式との違いとコスト効率化のねらい

従来の総括原価方式では、送配電事業に必要と見込まれる原価に適正な利潤を加え、料金収入と釣り合うように託送料金を設定していました。
しかし、その方式では、値上げ申請時には国の審査が行われるものの、料金改定がなければ費用の妥当性を定期的に検証しにくく、効率化への動機が弱まりやすい点が課題でした。
レベニューキャップ制度では、5年ごとに計画と費用を審査し、事業者間の比較や効率化係数なども用いて収入上限を定めます。規制期間中に効率化して生まれた利益は一定のルールで事業者に認められるため、コスト削減に取り組む余地が生まれます。その成果は次の規制期間の上限設定にも反映され、長期的には需要家への還元につなげるという考え方です。
電気料金・託送料金への影響と実務上の備え

レベニューキャップ制度の変更が、請求書へ同じ形で表れるとは限りません。託送料金から小売電気事業者の料金メニューへ、どのように費用が反映されるかを分けて考える必要があります。
託送料金が電気料金に含まれる仕組み
託送料金は、小売電気事業者が一般送配電事業者へ支払う送配電網の利用料金です。需要家が一般送配電事業者へ直接支払うのではなく、基本料金や電力量料金などに織り込まれ、電気料金の一部として負担するのが一般的です。
同じ供給エリアであれば、契約する小売電気事業者を切り替えても、利用する送配電網と託送料金の体系は変わりません。ただし、小売電気事業者が託送料金の変動をどの項目へ、どの時点で反映するかは契約や料金メニューによって異なります。
今後の託送料金はどうなるか(第2規制期間・発電側課金)
レベニューキャップ制度の第1規制期間は2023〜2027年度で、第2規制期間は2028年度以降となる見込みです。
2024年度からは、送配電網の維持・拡充費用の一部を発電事業者も負担する「発電側課金」が始まりました。需要側の託送料金を抑える方向には働きますが、発電側課金を卸料金へ上乗せするなど、小売電気事業者へ転嫁する方法も想定されています。
一方、物価や労務費、金利の上昇は、託送料金の上昇圧力となります。実際に2026年7月には、一般送配電事業者8社が、これらの費用上昇を「収入の見通し」に反映するため、期中調整(規制期間中の見直し)の変更承認申請を行いました(2026年7月時点で審査中)。
上昇圧力は将来だけの話ではなく、第1規制期間の途中ですでに現れており、系統整備の負担が続く第2規制期間以降も注視が必要です。

POINT
制度ごとの増減だけでなく、最終的な電気料金全体で影響を捉える必要があるのじゃ。
※引用元
発電側課金制度について|電力・ガス取引監視等委員会
一般送配電事業者8社から託送供給等に係る収入の見通しの変更承認申請を受理しました|経済産業省
法人・自治体が予算やコスト計画で押さえるべき視点
法人や自治体では、現在の単価だけで年間予算を固定せず、託送料金や制度費用が変わる可能性を織り込んでおくと、予算差異の理由を説明しやすくなります。自治体であれば、託送料金の改定は議会や住民への説明資料としても整理しておくと安心です。特に複数エリアに拠点がある場合は、一般送配電事業者ごとの改定内容を分けて管理する必要があります。
契約更新時には、基本料金・電力量料金の単価だけでなく、託送料金の改定が自動的に反映されるのか、小売電気事業者が独自に調整するのかも見ておきたいところです。そのうえで、使用量と最大需要電力の推移を整理し、複数の料金シナリオで年間費用を試算すると、制度変更があっても判断しやすくなります。
レベニューキャップ制度に関するよくある質問

制度名だけを見ると、電気料金の上限を決める仕組みと受け取られやすいかもしれません。ここでは、需要家の立場から特に混同しやすい点を整理します。
Q:レベニューキャップ制度で電気料金は必ず上がりますか?
必ず上がるわけではありません。収入上限には設備投資や物価上昇による増加要因だけでなく、効率化や需要見通しなども反映されます。さらに、実際の電気料金への反映方法は小売電気事業者や契約内容によって異なります。
Q:電力会社を切り替えれば託送料金の影響は避けられますか?
原則として避けられません。同じエリアでは、どの小売電気事業者と契約しても同じ一般送配電事業者のネットワークを利用するためです。ただし、託送料金を含む費用の転嫁方法や、その他の料金条件には違いがあります。
Q:需要家側でできる対策はありますか?
制度そのものを変えることはできませんが、契約条件と使用実態の見直しは可能です。料金改定時期を把握し、年間使用量や最大需要電力を基に複数の契約を比較することで、総額への影響を抑えられる余地があります。
制度を理解し、電力コストの変化に先回りする
レベニューキャップ制度は、送配電設備に必要な投資を確保しながら、一般送配電事業者へ継続的な効率化を促す仕組みです。収入上限の変更が、そのまま同じ割合で電気料金の上昇につながるわけではありませんが、託送料金を通じて法人や自治体の負担に影響する可能性があります。
今後は、第1規制期間中の料金改定に加え、2028年度からの第2規制期間の制度設計も見ていく必要があります。予算を組む際は、契約単価だけでなく、託送料金の改定時期、料金への反映条件、使用量や最大需要電力まで一体で整理することが大切です。
社内だけで見通しを立てにくい場合は、第三者の立場で複数の契約条件と将来シナリオを比較・診断できる専門家に相談することも、安定した電力調達への近道です。


















