電気料金の高騰や再生可能エネルギーの拡大により、「需給調整市場」という言葉を目にする機会が増えています。
需給調整市場は、電力の需要と供給のバランスを保つために必要な「調整力」を取引する市場です。一般送配電事業者が周波数制御や需給バランス調整に必要な調整力を調達するために創設された市場で、2021年度に一部の商品区分から取引が始まり、2024年度にかけて対象が全商品区分へ段階的に拡大しました。
この記事では、需給調整市場の基本的な仕組みから、企業・自治体の電気料金や電力調達にどのような影響があるのかまで、わかりやすく解説します。
需給調整市場とは?まず押さえるべき全体像

※引用元:需給調整市場の検討・詳細設計|電力広域的運営推進機関
需給調整市場を理解するうえで、まず押さえておきたいのは「電気は使う量とつくる量を常に一致させる必要がある」という点です。
電気は大量に貯めておくことが難しく、需要と供給のバランスが崩れると周波数が乱れ、電力の安定供給に影響を及ぼします。そのため、電力系統を安定して運用するには、需給の変動に応じて出力をすばやく増減できる調整力が欠かせません。
従来、こうした調整力は各エリアの一般送配電事業者がそれぞれ公募で確保していました。しかし、需給調整市場の導入により、エリアを越えて調整力を取引・調達する仕組みへと段階的に移行しています。これにより、必要な調整力をより効率的に確保し、電力系統全体の安定運用につなげることが期待されています。

POINT
需給調整市場は、直接参加しない企業や自治体にとっても無関係な制度ではない。電力の安定供給や電気料金の構造、再生可能エネルギーの活用にも関わるため、参加の有無にかかわらず、基本的な仕組みを理解しておくことが重要なのじゃ。
一言でいうと「電力の瞬間的な過不足を調整する市場」
需給調整市場は、一言でいうと「電力の瞬間的な過不足を調整するための市場」です。
事前に予測した電力の需給バランスにズレが生じた際、発電量を増やしたり、蓄電池を放電したり、あるいは需要を一時的に抑制したりするコントロール能力が必要になります。これを「調整力」と呼びます。
一般送配電事業者は、需給調整市場を通じて調整力を事前に調達しておき、必要なタイミングで発電量の増減や需要の抑制を行うことで、電力の安定供給を保っています。
なぜ「参加しない企業・自治体」にも関係するのか
需給調整市場は、一般企業や自治体が必ず直接参加する市場ではありません。 それでも関係があるのは、需給調整にかかる費用が、電力会社の調達コストや託送料金、小売料金の設計に間接的に影響する可能性があるためです。
特に高圧・特別高圧で電力を使う企業や自治体では、制度変更や市場価格の変動が契約条件に反映されるケースがあります。 そのため、契約単価の安さだけで判断すると、後年度の料金変動を予算計画に織り込めず、議会や上長への説明責任を果たしにくくなる点に留意が必要です。
需給調整市場が生まれた背景

なぜ需給調整市場が必要とされるようになったのか、再生可能エネルギーの拡大と短時間の需給変動という2つの視点から見ていきます。
再生可能エネルギーの拡大と需給変動の増大
太陽光発電や風力発電は、脱炭素を進めるうえで欠かせない電源です。一方で、天候や時間帯によって発電量が大きく変わるため、電力の需給バランスを保つ難しさも増しています。
たとえば、晴天時の昼間は太陽光発電が多くなりやすい一方、夕方以降は発電量が急に減ります。風力発電も、風の状況によって出力が変動します。再エネの導入量が増えるほど、発電量の変動を吸収する仕組みが重要になるのです。
30分単位の計画だけでは補えない短時間の調整
電力の世界では、発電事業者や小売電気事業者が30分単位で計画と実績を一致させる「計画値同時同量」の考え方があります。
ただし、実際の電気の使用量や発電量は、30分の中でも細かく変動します。工場設備が急に稼働する、空調の使用量が増える、雲がかかって太陽光発電の出力が下がる、といった変化は常に起こります。
需給調整市場は、こうした30分単位の計画では対応しきれない細かなズレを補うためにできた仕組みでもあるのです。
需給調整市場の仕組み
ここでは制度の細部には立ち入らず、企業・自治体への影響を理解するうえで必要な範囲に絞って解説します。需給調整市場は、一般送配電事業者が電力の安定供給に必要な調整力を、市場を通じて調達する仕組みです。
調整力を提供する側の発電事業者やアグリゲーターは、あらかじめ「どの時間帯に、どれだけの調整力を提供できるか」を入札します。調達する側の一般送配電事業者は、その入札内容をもとに必要な調整力を確保し、実際に需給バランスが崩れたときには、発電量の増減や需要抑制などを指令してバランスを整えます。
これにより、安定供給を維持しながら、調整力の調達をより透明で効率的に行えるようになっています。
ΔkW(調整力)とkWh(電力量)の違い
需給調整市場を理解するうえで不可欠なのが、ΔkWとkWhの違いです。
ΔkWとは、「必要なときに出力を調整できるよう、待機している能力」を指します。蓄電池や自家発電設備がいつでも稼働できる状態で準備されていれば、その「待機しているポテンシャル(供給力)」そのものに価値が認められます。
一方、kWhは「実際に発電・放電した、あるいは需要を抑制した電力量」の実績値です。
簡単にいえば、ΔkWは「いざという時の待機力」、kWhは「実際に動いた電力量(エネルギー量)」という違いになります。需給調整市場では、この待機力(ΔkW)と実働分(kWh)の双方が取引・精算の対象となります。
卸電力市場・容量市場との違い
需給調整市場は、卸電力市場や容量市場と混同されやすい制度です。
卸電力市場では、需要家へ供給する電力量、いわゆるkWh価値が取引されます。一方、容量市場は、将来の安定供給に必要な供給力をあらかじめ確保するための市場という位置づけです。
これに対し、需給調整市場で取引されるのは、実際の需給バランスにずれが生じた際、短時間で出力を増減できる調整力です。つまり、電気そのものの量ではなく、主に需給の変動に対応するためのΔkW価値を対象とし、実際に動いた分はkWhとして精算される市場といえます。
需給調整市場が企業・自治体に与える影響と関わり方

企業や自治体にとって、需給調整市場は大きく2つの観点から捉えることができます。影響を間接的に受ける立場と、能動的に活用する立場の2段階です。
電気料金・調達コストへの影響
需給調整市場は、一般企業や自治体が毎月直接支払う市場ではありません。しかし、調整力を確保するためのコストは、電力システム全体の費用として無視できない要素です。
調整力の調達費用が高くなれば、一般送配電事業者の費用や託送料金、小売電気事業者の料金設計に影響する可能性があります。
そのため、企業や自治体が電力契約を見直す際は、単価だけでなく、制度変更や市場環境の変化を含めて総合的に判断しなければなりません。
能動的に活用する場合の選択肢と現実的なハードル
企業や自治体が需給調整市場を能動的に活用する場合、蓄電池、自家発電設備、空調や生産設備の制御、デマンドレスポンスなどが選択肢になります。
一方で、参加には設備の応答性能、計測・通信機能、制御システム、運用体制が必要です。そのため、収益化だけを目的に判断するのではなく、BCP対策、脱炭素、電力調達の安定化とあわせて検討することが現実的です。 多くの需要家にとっては単独での参加はハードルが高く、アグリゲーターを介した間接的な関与が現実的な選択肢となります。
需給調整市場に関するよくある質問

ここからは、企業や自治体の担当者が疑問に感じやすい点を整理します。
Q:一般企業や自治体も需給調整市場に参加できますか?
一般企業や自治体も、条件を満たせばアグリゲーターを通じて需給調整市場に参加できる可能性があります。
ただし、単に蓄電池や自家発電設備があるだけで参加できるわけではありません。一般送配電事業者からの指令に応じられる制御体制、正確な計測、通信環境、設備の応答性能などが求められます。
そのため、参加を検討する場合は、まず設備の種類や契約電力、運用状況を整理し、アグリゲーターや電力調達の専門家に確認することが現実的です。
Q:蓄電池がない企業にも関係がありますか?
蓄電池がない企業や自治体にも、需給調整市場は関係があります。
理由は、需給調整市場が電力の安定供給を支える制度であり、調整力の確保コストが電力システム全体の費用に関係するためです。市場に参加しない需要家でも、電気料金や契約条件、市場連動型プランのリスクを考えるうえで、制度の概要を知っておく価値があります。
Q:需給調整市場が動くと電気料金は上がりますか?
需給調整市場があるからといって、直ちにすべての企業・自治体の電気料金が上がるわけではありません。ただし、調整力を確保するための費用が高くなると、託送料金や小売電気事業者の料金設計に影響する可能性があります。
電力コストの全体像を踏まえた選択肢を持とう
需給調整市場は、電力の安定供給を支える重要な仕組みです。
再生可能エネルギーの拡大や電力市場の複雑化により、企業や自治体の電力調達では、単に「安い電力会社を選ぶ」だけではなくなっています。市場価格の変動、制度変更、供給安定性、脱炭素、設備活用まで含めて、総合的に判断することが求められます。特に自治体では、単価比較だけの選定では住民や議会への説明責任を果たしにくく、判断根拠を記録として残せる調達プロセスが重要になります。
自社や自治体の電力使用状況を把握し、契約や設備の活用余地を客観的に整理したい場合は、専門家による無料診断を活用することも一つの方法です。

POINT
需給調整市場に直接参加するかどうかにかかわらず、自社や自治体の電力使用データを把握し、契約内容や設備の活用余地を確認しておくことが重要じゃ。蓄電池や自家発電設備、デマンドレスポンスの活用が現実的かどうかも、電力コスト全体を見ながら検討する必要があるじゃろう。

















